The Sedimentological Society of Japan

地球初期生命の誕生と堆積環境

上野雄一郎(東京大学・総合・宇宙地球科学教室)

Earth’s earliest life and its environment
Yuichiro Ueno (Univ. Tokyo)


   熱水系は地球生命の発生とその初期進化の場として注目されている。分子生物学的な見地から 全生物の共通先祖が好熱性の細菌であった事が指摘されると、太古代(40?25億年前)の生命 研究も熱水系という観点から見直されるようになった。太古代の生命活動は細菌化石や、特徴 的な安定同位体組成を持つ堆積有機物や硫化物として記録されている(Awramik et al., 1983; Schidlowski et al., 1983; Shen et al., 2001)。これら生命活動の痕跡はいずれも海底に 噴出した枕状溶岩に伴うチャート層中に産することがほとんどである。西オーストラリア、 ピルバラ地塊のノースポール地域はその典型的な産地として知られ、化石を含む最古のチャート 層(約35億年前)が分布する。同地域のチャート層は当初、潮間帯を主とする水深の浅い環境 で蒸発岩として堆積し、その後珪化したものと解釈された(Buick and Dunlop, 1990; Dunlop and Buick, 1981)。ところが最近になって、このチャート層とその直下の枕状溶岩は熱水性岩 脈を密接に伴うことが判明し、さらに露頭の観察からこの岩脈の貫入時期はチャート層の堆積 と同時期である事が示された(磯崎ほか, 1995; Nijman et al., 1999; Van Kranendonk et al., 2001)。従って本地域の堆積岩は約35億年前当時の海底熱水系における生物活動を記録 していると考えられる。さらに当時の海底下に発達した熱水性岩脈も13Cに乏しい有機物を含 むことが指摘されたため、海底下を循環していた熱水中でも生物が活動していた可能性もある (Ueno et al., 2004)。こうした観点から演者らは主に炭素・硫黄の安定同位体化学を用い て当時の生命活動を復元する事を試みている。講演ではノースポール地域の例から地球初期熱 水系での生態系について議論する。


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