The Sedimentological Society of Japan

生命の進化と地下生物圏

長沼 毅(広島大学 大学院 生物圏科学研究科)

Biological evolution and deep subsurface biosphere
Takeshi Naganuma (School of Biosphere Science, Hiroshima Univ.)




生命の起源のサイト(場)の有力候補は深海熱水噴出孔であると考えられている。 しかし、生命誕生時の原始地球には隕石の重爆撃が多く、“全海洋蒸発”や“地球表面殺菌” が繰り返されたとも考えられている。すると、生命誕生の場の最有力候補は「熱水噴出孔の地下」 ということになるだろう。生命誕生や初期進化のプロセスは私には推し量れないが、この要旨 ではマグネシウム(Mg)を切口にして、地球と生命の進化を考察してみたい。



  地球生物圏の三大重要分子と言われたら、私は葉緑素(クロロフィル)、アデノシン三リン酸 (ATP:生体エネルギー通貨)、ブドウ糖(グルコース:代謝基質)を挙げる。Mgはクロロフィル の活性中心であり、ATPとは細胞内ではMg-ATP錯体であり、グルコース代謝の第一反応にMgが必要である。
  マグネシウム(Mg)は粘土鉱物スメクタイトの層間に蓄積され、スメクタイト-イライト変換(SI反応)で溶出する。デボン紀/石炭紀の境界(363 Ma)以降、陸上植物の根圏が地中深くまで広がり、粘土鉱物におけるスメクタイトの割合が増加した。これがMgの挙動に及ぼした影響と、それに対する生物圏の応答は今後の重要な研究課題であろう。なお、最近、SI反応を微生物が大気圧・室温で触媒するという報告があった(Kim et al., 2004)。
  MgやCa、Feなど生命活動に重要な陽イオン元素の挙動・移行について、粘土鉱物や炭酸塩鉱物などの役割を俯瞰することも必要である。たとえば、熱変成による反応1・2は、有機物の分解以外のCO2の供給源として、地下の化学合成独立栄養、特にに水素酸化独立栄養4H2+CO2 → 2H2O+CH4(これはメタン生成と同義)に重要な意味を持つ(長沼, 2004)。また、水の供給源としては、反応3・4が重要であるという指摘もされている。

  反応1 カルサイト(炭酸塩)+石英(珪酸塩)→ 珪灰石(CaSiO3)+CO2
  反応2 ドロマイト+石英→フォルステライト(Mg2SiO4)+カルサイト+CO2
  反応3 スメクタイト(熱変成)→イライト+H2O(層間水由来)
  反応4 白雲母(熱変成)→カリ長石+コランダム+H2O(水和水由来)

文献
Kim et al., 2004, Role of microbes in the smectite-to-illite reaction. Science, 303, 830-832. 長沼 毅, 2004, 生命の星・エウロパ.NHK出版, 東京, 244p.


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