The Sedimentological Society of Japan

太古代の大陸地殻形成と海底堆積作用:
西オーストラリア・ピルバラクラトンの例 

(清川昌一:九州大学地球惑星)

Continental crustal growth and oceanic sedimentation in Archean example: Pilbara Craton Western Australia.
Shoichi Kiyokawa(Kyushu Univ.)


 太古代は地球が進化していく上で、3つの大きな柱を形成した時代である。1)大陸地殻形成、2)酸素大気への移行、3)生物の出現である。この3項目は惑星地球がほかの惑星とは違った歴史をたどるための重要なポイントとなる。筆者はこの3項目に注目して、地球がどのように進化してきたかの証拠を地層から探し出すことを目標に太古代の地質が好条件で露出している西オーストラリア・ピルバラクラトンについて調査を行ってきた。
 調査地域である西ピルバラ海岸グリーンストーン帯は、ピルバラでも唯一海岸線に好露頭が広がる地域で詳細な調査ができるとともに、地質学的にも花崗岩ドームの周りに緑色岩・堆積岩類が取り囲むいわゆる典型的なグリーンストーン・花崗岩帯からなる。本地域では、広域マッピングおよび露頭規模の詳細な地質図・断面図を作成し、層序・構造を明らかにすることにより、グリーンストーン帯の構造発達史、またその中に保存されている地層より当時の海底での堆積作用について考察した。

1)大陸成長について:「西ピルバラグリーンストーン帯:層序・構造」
 西ピルバラグリーンストーン帯は、32.6億年前の花崗岩およびその被覆層、また、それらをスラストで覆う32億年前の緑色岩と堆積岩を主体とする地層からなる。層序は前者は花崗岩ドーム上に浅海堆積物が覆うものであり、後者は下位からガブロ、角閃石、流紋岩、枕状溶岩、化学堆積岩(チャート・縞状鉄鋼層)からなり、スラストによって繰り返す。特に上位の堆積層は枕状玄武岩溶岩、流紋岩、チャート層が整合的に3回ほど重なる層序を持つ。本地域の岩石はバイモーダル火成活動が繰り返す場で堆積した地質帯、現在の海洋性島弧のような場所で形成したものと類似する。また、地殻深部もトーナライト・ガブロなどがハイブリッドに混ざった産状を示す。これらは、現在の海洋性島弧における地殻・表層層序に類似する。
 本地域では以下の3つの変形イベントが認識される。D1 (約32~31億年前) 花崗岩体上へのグリーンストーン帯のスラスト・インブリケーション、D2 (30~29億年前) 広域左横ずれ運動、D3(約28億年前) テレーン境界右横ずれ運動。D1は海洋性島弧の初期大陸への付加作用にあたり、インブリケーションした構造をつくる。D2変形時には本地質帯は大陸の一部になっており、大陸内でのテレーンごとの横ずれ運動である。浅海性の横ずれ堆積盆を形成する。これはピルバラ全体に起こった変動で、ピルバラ中部におけるララロッホ堆積盆をつくる。D3はテレーン境界の再活動にともなうものである。堆積および変形年代はジルコンU-Pb年代により、グリーンストーン帯の堆積が32億年前。30億年前に本地域全体に酸性岩貫入活動が起こっており、上記の変形年代が推定できる。
 これらの層序的、構造的特長により、西ピルバラ海岸グリーンストーン帯は海洋性島弧が初期大陸に衝突付加した地質帯であると考えられる(Kiyokawa and Taira, 1998, Kiyokawa et al., 2002)、本調査は海洋性島弧の付加が初期大陸を太らせる重要な役割を果たしていることを示唆する。

2)海洋底堆積作用について:「デキソンアイランド層について」
 西ピルバラ海岸グリーンストーン帯には海洋性島弧表層部の堆積層が連続的に露出している(Kiyokawa and Taira, 1998)。これらは、緑色片岩相より低い変成度で、当時の堆積場の状態をよく保存している。特にデキソンアイランド層では、火山岩から化学沈殿堆積物への側方変化を含む地層の連続性が確認できる。ここでは、熱水系に伴う海底表層堆積物が保存よく残されており、精度よく状況を復元できる。
 デキソンアイランド層は下位から流紋岩質凝灰岩層、黒色チャート層、多色チャート層からなる。流紋岩質凝灰岩層には著しい黒色珪質(チャート)脈がみられ、その連続性が黒色チャート層で見られなくなるため、脈が上位の黒色チャート層を供給したと考えられる。流紋岩凝灰岩層は変質が著しくその変質帯が側方に連続するため、海底下の熱水循環の痕跡の可能性が示唆される。黒色チャート層は下位ほど塊状で、組織は脈物質に類似するため海底から噴出したものが堆積したと思われる。上位は非常に細かなラミナを持つ堆積物で、上からの沈殿物質である。黒色チャートはTOCが多いところで0.1wt%に達し、炭素δ14C同位体比は28~32‰である。特に炭素が多いところには顕微鏡下でバクテリア化石が確認できる。最上部の多色チャート層は、鉄の量が多くなり、特に上位は縞状鉄鉱層を形成している。
 これらの特徴はデキソンアイランド層は最下位の流紋岩質凝灰岩層における熱水活動により、海底表層での微生物活動が行われ、その結果黒色チャート層が堆積示す。また縞状鉄鉱層は、微生物の活動に関連した酸素発生作用による酸化環境への移行を示す間接的な証拠となると考えられる。また、デキソンアイランド層で見られる層序(「チャート・BIFシークエンス」)は35億年前のマーブルバーチャート、26億年前のハマスレー縞状鉄鉱層でも観察でき、太古代の海底における一般的な堆積相であると考えられる。

文献
Kiyokawa, S., Taira, A. 1998, The Cleaverville Group in the West Pilbara Coastal Granioid-Greenstone Terrain of Western Australia: an example of a Middle Archean immature oceanic island-arc succession: Precambrian Research, 88, 109-142.
Kiyokawa, S., Taira, A., Byrne, T., Bowring, S., Sano, Y., 2002, Structural evolution of the middle Archean coastal Pilbara terrane, Western Australia: Tectonics, 21, 5, 1044-1068.


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